II.成熟都市シミュレータの原理と操作

1. シミュレーションとその階層

 例えば「景観シミュレーション」という概念にも、いくつかの異なるレベルのシミュレーションが含まれており、それらが重層的に機能することにより実用的で有用なシステムが実現されます。

(1)製図・絵描きのシミュレーション(レンダリング)

 最も基礎には、与えられた2次元ないし3次元の実体(空間における線・面・立体)の形状をデータとして表現し(ファイルの形式、メモリ上の構造体等)、これを適当な視点から眺めた時のパースを画面に表示するシミュレーションです。線画として表示するためには、幾何学の座標計算だけで十分ですが、立体的に見せるためには、光源の方位・色彩と、それぞれの物体表面の色彩・反射率・模様(テクスチャ)の情報を用いた膨大な計算を行う必要があります。近年、コンピュータの処理速度の向上、及び定石的な処理をパッケージしたライブラリの充実により開発が楽になり、様々のアプリケーションに組み込まれて急速に実用化・普及しつつあります。

 このシミュレーションの中で行われる計算は、図学・光学・幾何学等に基づくものであり、その手順は地域を問わずかなり客観的に規定することができます。

 建設省版・景観シミュレータにおけるLSS−Gファイルは、状況に無関係に、物体固有の性質として記述できる情報(モデル)を記述したものです。これに対して、LSS−Sファイルは、このシミュレーションの中で、状況に応じてユーザーが変更することのできる光源、視点・注視点、時刻などの情報を定義することができます。景観シミュレータの中での機能としては、メイン画面における接近・後退、回転、シフトなどの視点移動、編集のメニュー中の視点設定・移動経路設定・可視範囲解析、シャッター機能、光源設定機能、表示の下の諸メニューなどがこのレベルのシミュレーションに対応するものです。

 応用として、立体視(左右の目を視点位置として二つのパースを作成し、それぞれを左右の眼に別々に供給して立体的に見せる)のための装置(液晶シャッターメガネ等)を用いた技術、視点位置を少しずつ変化させながら連続的に表示し、動画として見せる技術、マルチスクリーンを用いて臨場感を高める技術などが普及し始めています。

(2)設計・工事のシミュレーション(モデリング)

 一定の固定された一つの仮想世界の中を歩き回るだけではなく、実際の土木建築施設の建設や除却に伴う景観への影響を検討するためには、風景を構成する諸要素を追加・削除・変形・加工するような機能を実現する必要があります。

 実際の景観検討項目に対応した、図形の編集機能の性能の充実により、操作性が決定されます。

 建設省版・景観シミュレータにおいては、メイン画面の選択機能、編集の配置機能、移動・回転・スケール機能、削除機能、マテリアル・テクスチャ編集機能、形状生成の諸機能が、これに対応しています。

 この機能は、検討しようとする対象物の形状・仕上げ等が、単独または少数の設計・計画主体により予め決定されるようなプロセスに用いることができます。公共土木建築施設の設計、市街地再開発のように、予め形状を決定してから、実際の工事に入るようなプロセスに適しています。

 このシミュレーションが根拠とするロジックは、単なる自然法則としての幾何学のみならず、土木建築技術(施工技術)の体系、土木施設に係る構造令や建築基準法・都市計画法等が関係していますが、その内容はある程度客観的に把握し、アルゴリスムとしてプログラムに取り込むことが可能です。