8.データ作成コストと実務上の問題点

システム導入そのもののコストは、近年のパソコンの低価格化・高性能化により、殆ど問題とならなくなりました。ワープロや表計算ソフトが実行可能なパソコンであれば、概ねインストールし、利用することができます。

従って、実際の運用の中でのデータ作成コストが、この種のシステムの実務への導入に当って、大きな要素となります。

コストを評価するためには、データ入力作業に先立って、どの程度の費用・手間を予定すれば良いか、という問題と、データ入力結果が既に得られていて、それの価値をどう評価するか、という問題があります。

前者については、Iで紹介したような、現場での経験が参考になると思われます。即ち、従来の慣習的な方法(図面やパース、模型などによる表現・検討)から導かれる、凡その費用・手間の相場のようなものがあり、それ以内の負担で、どの程度のデータを作成するか、という判断です。その場合、職員が直接作業を行う場合には、1〜2週間の作業期間で作成可能なデータ、また外注する場合には、150〜300万円程度の費用でできる内容という辺が、現段階での一つの目安になっているようです。

実際に入力作業を行う場合には、以下の3種類の作業形態が考えられます。

(1) 現場の担当職員が直接システムを操作してデータを作成する場合

(2) 外注によりデータを作成するが、外注先の担当者は現場に常駐して作業を行う場合(職員派遣の形態)

(3)?データ作成を業者に外注し、成果の納品を受ける場合

Iで紹介した現場のうち、福島市役所の場合は、(1)の形態を、また都市基盤整備公団の場合は、(2)の形態を採用しています。建設省の工事事務所の多くは、(3)の形態を採る場合が多いようです。

将来的には、CGを使った設計検討業務が日常業務化する中で、次第に(3)から(1)の方にシフトしていくことが考えられます。また、対話型の計画策定という意味では、なるべく直接の担当者が操作できることが望ましいことは言うまでもありません。現場での関係者との打ち合せの中で出てきた斬新な意見に対して、持帰って修正し、後日に再提示するのではなく、その場で直ちに意見を形として表現し、その中を歩きまわって検証することができれば、フィードバックのサイクルは大幅に短縮することができ、コストダウンと計画内容・結果の向上が期待できます。

次に、データ入力の積算、及び成果の評価に関する尺度について考えてみます。例えば建築工事であれば、「坪単価」といった目安が存在します。しかしながら、CG製作作業の場合には、対象となる物件の「大きさ」は余り重要ではありません。巨大な建造物であっても、単なる箱として表現できるものであれば、簡単に作成できます。しかし、たとえ一本の木であっても、複雑な枝振のものであれば、データ作成には膨大な費用と手間を必要とします。建築物であっても、例えば同じパターンの窓やバルコニーの繰返しであれば、部品のコピーで簡単に作成できますが、例えば壁面に湾曲があって、一つ一つが異なる形状の場合には、大変な手間がかかります。すなわち、対象となる物件の「大きさ」ではなく「複雑さ」が尺度になると考えられます。

従来は、ポリゴン数によって、データの複雑さを記述することもありました。しかしながら、同じ円柱であっても、16角形で近似する場合と、128角形で近似する場合では、ポリゴン数には18と130の違いがあります。しかし、入力のための手間は殆ど同じであり、パラメータの設定が異なるだけです。

そこで、このようなパラメトリックな部品の記述をも可能とした景観シミュレータにおけるデータの大きさが、一つの目安になると思われます。例えば、円柱であれば、多面体で近似するのではなく、パラメトリックな部品として記述できるので、データ量は、表示段階でのポリゴン分割数に関りなく一定です。また、一度作成した部品を数多く配置した場合には、配置の位置と向きを記述する「リンク」が増えるだけで、部品内部の形状を記述するデータの量は増加しません。従って、全体の手間は概ね、

K×グループ数 (+ L×リンク数)

として記述できると思われます。

(ここで Kは一つのグループを形状生成する手間(価格)、Lは一つのグループを配置する手間です)

また、形態を生成した後に、マテリアルやテクスチャ等を施す場合には、別の手間を必要としますから、Lについては、

Lm (形状生成=モデリング のみ)

Lc? (色彩の編集を行った場合)

Lt? (テクスチャ貼付け(テクスチャ座

????? 標設定含む)を行った場合

のようにランキングされるかも知れません。但し、既にテクスチャが施された既存の部品を用いる場合には、テクスチャ貼付けの手間はかかりません。

景観シミュレータで全体を合成したデータを表示している段階で、[ファイル][報告書執筆]機能を起動すると、ポリゴン数、グループ数を含む報告書が作成されます。

I−応用4で示した韓国水原城は、かなり複雑なデータで、末尾に報告書を掲載しました。これによると、実態グループ総数719、表示グループ総数26,383、表示ポリゴン総数49,928となっています。このうち、上記の考えに従うならば、実態グループ総数の719が、最もデータ作成に要した手間に対応した数値であると考えられます。これに対して、表示グループ数やポリゴンの数は、視点移動・再描画の速度に関係します。

このデータ作成に要した手間はおよそ2週間(女性非常勤職員)で、その間の人件費は約7万円強です。従って、実態グループ一つあたり、100〜200円+諸経費、といった辺が、手作業による入力の手間の目安になるのではないか、と考えています。

成熟都市シミュレータのように、地割と都市計画条件などから形状を自動生成するような、別システムを用いた場合には、はるかに少ない手間で膨大なデータを生成します。