研究経過
1.研究構想段階(2009)

問題の所在
江戸時代に遡る古民家の調査において、建設年代にかかる「棟札」などの情報は貴重である
特徴:基本的には古代からの「木簡」の一種で、建物の棟木の下側など、保存条件の良い部位に固定されている
アンモニア水等で煤を落とすと、建設年代や建設工事に関わった人名を知ることができる
住宅の寿命が延びているが、付帯情報の保存は怪しい
現在、設計図書などの保存状況は悪い。有名建築物ですら、設計図は紛失していることが多い
特徴:施主は設計図書を保管しない。設計事務所の書庫にも限界がある。
紙の図面等を保管する方法が唯一の手段。
情報の電子化による可能性
電子情報化することにより、紙で表現できない三次元データや動画、音声なども保存が可能となった。
特徴:コンパクトに保存し、NETで転送したり、検索することも可能
長期保存技術の未確立
メディアや記録方式の急激な発達に伴い、僅か10年前のデータでも、有効利用は覚束ない
特徴:例えば、8ミリビデオやフロッピーディスクに保管されたデータを考えて見ると良い。
データセンターに期待されているが
特徴:情報の媒体変換やHDクラッシュに備えたバックアップの煩わしさからは解放される。
これは10年前における理想が実現されていることにはなる。
しかし、データ形式の可読性の問題は残されており、様々な業界で、流通とは別に保存のための形式が決められている。
住宅の設計内容に関する情報の場合、一般にアクセス頻度は低い。サーバーに置くコストや消費電力が問題となる。またWEBアクセス可能な場合、万一流出・不正アクセス等が行われると防犯上のリスクが生じる。さらに、物理的メディアに固定されないデジタル情報の場合には、改ざん・偽造の対策も必要である。
2.第一年度(2010)

各種機関の調査
資料の永久保管を使命としている機関
保存のためのデータ形式を議論しているコンソーシアム等
データセンター、データ変換サービス等
歴史の調査
旧建設省で最も早くからコンピュータを導入し、住宅統計調査などに活用してきた建築研究所を例として、
デジタル・データがどのようなメディア・形式に保管されてきたかを跡付ける。
併せて、各種技術の将来性に関して、評価を行う。
[実績]
早くから住宅情報の長期保管を業務として実施している北海道建築指導センターをはじめ、
デジタル情報の長期保存を使命としている○○の機関に関して、実際にどのような場所・形態で
データを保管してきたかのヒヤリング調査を行った。
セキュリティ上、個別に状況を報告することはできないが、調査時点では、多くの機関が独自の
信頼できるデータセンターを有しており、MO等の比較的寿命の長い媒体との併用も行っている
ことが判明した。「デジタル・アーカイブス」と称する活動はまだ、オリジナルのデジタルデータ原本の
長期保存を目的としたものではなく、貴重なアナログ資料(画像、音源など)を傷めることなしに
一般公開するための手段として、公開用の副本を作成し利用する活動をさしていた。
建設省建築研究所で利用されていたデジタルデータおよび媒体のサンプルとしては、ホラリスカード、
紙テープ、各種フロッピーディスク等のサンプル(多くは現在すでに利用されておらず、また再生装置
が失われているために読み出すことができない。
この調査の結果の概要は、本WEBサイトのヒストリーのコーナーに掲載している。
更に、データ形式に関して、外注により主要な三次元データ形式の仕様書、サンプルデータ等の収集を行った。
3.第二年度(2011)
永久保存技術の構成要素として利用可能な要素技術を洗い出します。
概ね15年前には確立・普及しており、今後も持続性が期待できる技術が対象と考えています。

記録媒体に関する事項
FD, MO, CD, HDD, CF, BC
入出力インターフェースに関する事項
IEEE, USB, Ether, ...
記録データ形式関する事項
各種公開3次元データ形式(公開性の評価)
データ形式を記述するスキーマの共通文法
[実績]
前年度末の2011年3月11日に発生した東日本大震災を受け、被災した研究所の資料室の復旧、
被災地の復興支援等に資する内容を加味した研究となった。
具体的には、国土地理院等により精力的に測量・作成された被災地の地形、建物被災状況等に関するデータの利用を
目的として、コンバータの作成を行った。更に、これらを利用して、高地移転が進むことが想定されたため、高台
整地などの地形編集を行うプログラムを作成した。
更に、本研究の観点から、単に現在用いられているシステムのためのコンバータとすることにとどまらず、
コンバータのソースコードを原データに添付して保存したものを、後世においても再び利用できるような、
「仮想コンバータ」を作成することとし、具体的な実装形態として、vc-1c (ファイル出力)、vc-2v(仮想現実装置への入力)、
vc-3m(携帯端末を用いた現場でのリアルタイム写真合成)の作成を行った。
4.第三年度(2012)
コンセプト機を試作します。零細な町工場でも製作可能なオープン・ソース・ハードウェアとします。
各メーカー等にニーズの所在を示し、製品開発を促すことが目的です。

筐体と環境条件
震動・衝撃、生物・化学的条件、温度・湿度・放射線
記憶媒体
記憶を維持するために電力を消費しないこと。容量は、当面100MB程度を想定する。
(2)端子接続により電気的に読み出すタイプ
出力インターフェース
(2)改ざんや偽造ができないものであること。
(3)高電圧やノイズに対して強靭であること。
(4)各時代の標準的なインターフェースに接続可能な、単純な出力方法を用い、
アダプターを介在させる。
[実績]
データの長期保存に関連して、将来発生する利用段階での問題を考察するための具体的な検討事例として、
北海道南西沖地震で壊滅的な被害を受けた奥尻島に関して、住宅復興過程の記録を、
永久保存するためのサンプルデータとして作成することとした。
日本都市計画学会の助成を受けて、奥尻島災害復興研究会(座長:岡田成幸氏)に参加し、
国総研が保管してきた被災状況記録写真等を再整理し、立体化を行い、保存することとした。
20年前の調査においては、収集することができなかった、被災前の市街地状況を記録した古写真も、
研究を進める中で、島民、町役場、及び北総研等から寄せられたため、被災前の市街地状況も
保存データに加えることとした。
技術開発の面では、仮想コンバータの機能を拡張し、保存段階で作成されたメタファイルとデータファイルを、
読み込んで解析した結果を、頂点座標、線、面などの原始的な要素にまで完全分解してデータベースに蓄積し、
これを利用のための別形式を定めたメタファイルに従って、別形式のファイルに再構築する機構(vc-4d)を作成した。
保存媒体に関しては、当初中心的に考えていた、単純なインターフェースを持つ、電源なしに記憶を維持する電子回路と、
寿命の長い媒体に光学的に読み取り可能な記録を行うという方法の内、前者に関しては、適切な密度で記憶可能な媒体が、
その後あまり発達していないこと、レーザー加工機等の技術が急速に発達普及している状況を見て、後者を中心に検討を進めた。
2013年3月までには、非常に小規模のデータを記録した小さな媒体しか試作することができなかった。
現在、実際の本格的な保存データを記録した媒体を、具体的な外形パッケージを含めて試作段階にある(2013.11時点)。
5.とりまとめと発表
特許
(1)三次元図形演算プログラム、ダイナミックリンクライブラリ及び景観検討装置(2012.7特許5039978)
(2)高台整地プログラム、ダイナミックリンクライブラリ及び景観検討装置(2013.7特許5320576)
(3)データファイルを長期保存するためのファイル処理方法、ファイル処理装置及び保存媒体(2013.7出願)
(4)情報処理装置、情報処理方法及びプログラム(2013.11出願)
論文・原稿(奥尻島の保存データ作成過程も含めて掲載する)
(5)「奥尻島集落における古写真の位置比定と編年について−1993年以前の青苗集落を中心として−」(日本建築学会北海道支部研究会、2011.6)
(6)国際都市計画シンポジウム,H.Kobayashi "3D Archiving Houses and Settlements -Alternative Technologies to support Lasting Diachronic Memory-"
International Symposium on City Planning (2013.8) Sendai
(7)「奥尻島における古写真を用いた、1993年被災集落の立体的復原について」日本建築学会大会(2011.8)札幌
(8)「高台整地の景観シミュレーション」土木学会全国大会(2011.9)津田沼
(9)都市計画学会ワークショップ「奥尻島災害復興過程における生活環境の変容に関する研究」(2011.11)東京市谷
WEBサイト
(10)住宅統計等に使用された各種記憶媒体の歴史的変遷に関する研究資料
(11)持続性が期待できる既存技術の評価に関する研究資料
→本サイトのヒストリーのコーナーに概要を報告
公開ソフト等
(12)仮想コンバータ携帯端末版(VC-3M):http://sim.nilim.go.jp/MCS/phi/vc-3m/vc-3m0.asp
(13)高台整地プラグイン:http://sim.nilim.go.jp/MCS/flow/flow1.asp
(14)奥尻島の災害と復興の三次元的復原:http://sim.nilim.go.jp/Okushiri/
お断り:高台整地のプラグインを除き、論文発表やWEB公開は全て特許出願後に行っています
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